po-san-biz’s blog

ぽ〜さん(POSAN LLC 代表)。製造・コンサル・グローバル消費財・小売・IT プラットフォーマーの 5 業界を横断して、経営・マーケティング・カテゴリ戦略策定に従事。中小企業診断士、技術経営修士。一次資料・政府統計・学術論文を読み解いて、経済・経営・社会の通説を一段解像度上げる記事を書きます。データドリブンな反論と業界横断の構造分析が中心。

携帯料金は、国の号令で「同じ月に値下げ」の5年後に、3社が「順番に値上げ」——ドコモが理由にした人件費は、2025年度の減益要因に項目が無い

📝 この記事の問い:携帯料金は、誰がどう決めているのか。5年前の値下げと今回の値上げを並べると、何が見えるのか。

9月25日、NTTドコモが12月1日から既存の料金プランを月110〜550円値上げすると発表しました(ドコモ プレスリリース)。KDDIは2025年8月に、ソフトバンクは2026年7月に、すでに上げています。これで3社そろって値上げです。

私が引っかかったのは、5年前のことでした。2021年3月、この3社は同じ月に「20GBで3,000円弱」の新プランを出しています。あれは国が「4割程度下げる余地がある」と言って始まった値下げでした。下げるときは国の号令で同じ月に。上げるときは3社が順番に。これは、教科書が描くような、たくさんの売り手が競って決まる値段なのだろうか、と思って数字を集めました。

消費者物価指数「通信料(携帯電話)」2018年1月〜2026年8月(2020年=100)の線に、6つの出来事を重ねた図。2018年8月に官房長官「4割程度下げる余地がある」、2021年3月に3社が同じ月に20GB 3,000円弱の新プランを出し、指数は99.4から10月の47.0へ。2025年8月KDDI +330円、2026年5〜6月に国「国際的にも遜色ない水準」「低廉化は進んだ」、7月ソフトバンク +110〜550円、12月ドコモ +110〜550円。2026年8月の指数は61.0で2019年平均比−39%

ざっくり言うと

  • 5年前の値下げは、国の号令で始まった。2018年に官房長官が「4割程度下げる余地がある」と言い、2021年3月に3社が同じ月に20GB 3,000円弱のプランを出した。通信料の物価指数は半年余りで半分以下になった
  • 今回の値上げは、3社が順番に上げた。2025年8月にKDDI、2026年7月にソフトバンク、12月にドコモ。その間に国は「国際的にも遜色ない水準」「競争を通じて実現することが重要」と言い方を変えた
  • ドコモが理由に挙げた「人件費」は、2025年度の減益要因に項目が無い。減益1,665億円の内訳は5項目で、9割にあたる1,546億円は端末の値引き競争にかけた費用だった。その値引きは乗り換える人に向き、値上げは乗り換えない人の旧プランに届く
  • それでも家計は値下げ前より軽い。月の携帯代は1万611円から9,068円に減り、使う量は2.3倍。1GBあたりでは6割以上安くなった

この記事で言いたいことは、ひとつだけです

携帯料金は、値下げも値上げも「3社そろって」動いてきた。5年前は国の号令で同じ月に下がり、今回は1社が上げると1年余りで3社が並んだ。この業界の料金は、国の号令と3社の横並びで動いてきた。

3社がそろって上げると、値上げを避ける手段は、プランや会社を乗り換えることだけになります。だから、そろって上がった値段を払うのは、乗り換えない人です。競争がどこに向いているかは疑問3で確かめ、それを良いと見るか悪いと見るかは最後に切り分けます。まず事実を並べます。

疑問1:5年前、誰が下げさせたのか

国です。始まりは2018年8月、当時の菅義偉官房長官の「今よりも4割程度下げる余地がある」という発言でした(日経 2018年8月)。翌2019年10月には、端末代と通信料をセットで割り引く売り方が法律で制限され、端末の値引きは上限2万円になります(改正電気通信事業法、いわゆる完全分離)。2020年12月3日にドコモが20GB 2,980円(税抜)のahamoを発表すると(ドコモ)、ソフトバンクは19日後の12月22日に(SoftBank on LINE、20GB 2,980円)、KDDIは翌年1月13日に(povo、20GB 2,480円)、対抗するプランを発表しました(いずれも税抜)。2021年3月にはLINEMO(17日)、povo(23日)、ahamo(26日)が同じ月に始まります。税込で20GB 2,728円、2,728円、2,970円(内閣府「今週の指標」No.1261)。3社がほぼ同じ値段でした。

効果は物価指数にはっきり出ています。総務省統計局の消費者物価指数のうち「通信料(携帯電話)」は、2021年3月の99.4から4月に61.2へ、10月には47.0まで下がりました(統計局 CPI、2020年平均=100)。半年余りで半分以下です。総務省はこの値下げで国民負担が「年間で約4,300億円」軽くなったと説明しています(総務省 2021年7月資料)。

ここで押さえておきたいのは順番です。号令をかけたのは国で、1社が発表すると他の2社が数週間で続き、3社は同じ月に、同じような値段で応えました。値下げのときも「1社が動き、他社が続く」形だったわけです。今回と違うのは、きっかけが国の号令だったことと、追随が数週間だったことです。

疑問2:今回、誰が上げると決めたのか

時系列を並べます。

  • 2025年6月5日:ドコモが新プラン「ドコモMAX」を、旧プランより1,133円高い価格で提供開始。旧プランは新規受付を終了。ドコモはこれを値上げとは呼んでいません(ドコモ プレスリリース 2025年4月、差額はASCII.jp)
  • 2025年8月1日:KDDIが既存プランを月330円値上げ。理由は「今後も安定かつ高品質な通信と…サービスを提供するため」(KDDI ニュースリリース)
  • 2026年5月22日:林芳正総務大臣が会見で、携帯料金は「全体としては、大きな上昇は見られず、国際的にも遜色ない水準」、低廉化は「市場における競争を通じて実現することが重要」と発言(総務省 大臣会見録)
  • 2026年6月24日:総務省の有識者会議のとりまとめ案に「通信料金の低廉化は進んだと評価する意見が大半を占めた」(とりまとめ2026(案))
  • 2026年7月1日:ソフトバンクが既存プランを月110〜550円値上げ(ソフトバンク)。理由は、物価高騰による費用の上昇や通信トラフィックの増大に伴う設備投資と報じられています(ケータイ Watch)
  • 2026年9月25日:ドコモが12月1日からの月110〜550円の値上げを発表。ahamoも2,970円から3,135円へ

ドコモMAXを値上げと数えるなら1番目はドコモ、数えないならKDDIです。どちらで数えても、1社が動き、残りが続いた構図は変わりません。

国が「値下げは進んだ」「あとは競争で」と言ったのは、KDDIが上げた後、ソフトバンクとドコモが上げる前です。国が値上げを許可した、という話ではありません。ただ、5年前に号令をかけた側が、今回は号令をかけていない。時系列から分かるのはそこまでです。ソフトバンクとドコモが、KDDIを見て上げたのか、国の言い方が変わったのを見て上げたのかは、外からは区別できません。どちらでも、3社が最後にそろったことは変わりません。

念のため、法律の線引きを確認しておきます。民間の会社が「値下げしすぎたから、みんなで値上げしようか」と話し合って決めたら、それはカルテルです。公正取引委員会の説明では、「複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める行為」がカルテルで、独占禁止法が禁じる「不当な取引制限」にあたります(公正取引委員会「独占禁止法が規制する行為:不当な取引制限(カルテル)」)。

はっきり書いておきます。3社が連絡を取り合ったという事実は、どこにもありません。話し合いや情報交換がなく、1社が上げたのを見て他社が自分の判断で追随しただけなら、それだけでは独占禁止法の「不当な取引制限」にはあたらないとされています。値上げの幅(110〜550円)と対象(新規受付を終えた旧プラン)がソフトバンクとドコモで似ているのも、同じ業界で同じようなコスト構造なら、示し合わせなくてもそうなりえます。

私が見ているのは、違法かどうかより手前の、市場の形です。話し合わなくても、値段がそろいやすい。3社で契約の8割弱を持つ市場(総務省 2026年3月末。ドコモ32.9%、KDDI 26.2%、ソフトバンク18.7%)で、今回は、1社が上げたあと、時間はかかっても残りが続きました。競争が無いわけではありません。3社がどこで競っているかは、次の疑問3の決算で見えてきます。

疑問3:値上げの理由は、決算のどこにあるのか

ドコモはプレスリリースで、値上げの理由に「物価や人件費の上昇」を挙げました(ドコモ プレスリリース)。齋藤武副社長は会見で、通信量の増加に対応するネットワークの高度化、6G・AIへの投資、物価高や人件費上昇に伴う事業運営コストの増加、の3つを背景に挙げています(ITmedia Mobile)。では、決算はどうなっているのか。

ドコモ コンシューマ通信の営業利益の増減要因。2025年度実績(4,712→3,046億円)は通信サービス収入の減▲299、販促強化費用の増▲1,009、端末購入プログラム影響▲537、ネットワーク強靭化費用の増等▲206、アセット売却+386の5項目で、人件費・物価の項目は無い。2026年度会社予想(3,046→2,580億円)で初めて「アセット反動・人件費/物価高騰影響等」▲137が他要因との合算で登場。最大はネットワーク強靭化費用の増▲459

減益は事実です。ドコモの個人向け通信事業(コンシューマ通信)の営業利益は、2023年度6,158億円→2024年度4,712億円→2025年度3,046億円と、2年で半分になりました(2025年度決算説明資料)。

同じ資料に、2025年度の減益1,665億円の内訳があります。この内訳は、前の年から増えた費用と減った収入を並べたものです。毎年同じだけかかっている費用は、ここには出てきません。その前提で見ると、項目は5つです。通信サービス収入の減(▲299億円)、販促強化費用の増(▲1,009億円)、端末購入プログラムの影響(▲537億円)、ネットワーク強靭化費用の増など(▲206億円)、アセット売却の一時益(+386億円)。副社長が挙げた3つの背景のうち、ネットワーク関連は「ネットワーク強靭化費用の増等」(▲206億円)として出ています。6G・AIへの投資、「人件費」、「物価」は、項目としてありません。為替も、仕入れ値も出てきません。

減益1,665億円の9割にあたる1,546億円は、販促強化費用と端末購入プログラムの2つです(マイナスの項目だけを足した2,051億円に対しては75%)。どちらも、他社から乗り換えてくる客に端末を安く売るための費用です。2023年12月に国が端末値引きの上限を2万円から原則4万円に緩めており(総務省 施行規則改正の概要)、この費用が膨らんだのはその後です。決算の数字で見るかぎり、2年目の減り方の主な要因は、3社で客を取り合う値引き競争のコストでした。

賃上げそのものは事実です。NTTグループは2025年に6%前後の賃上げをしたと報じられています。ただ、2025年度の減益の内訳に、人件費は項目として出てきません。2026年度の会社予想で初めて、「アセット反動・人件費/物価高騰影響等」という他の要因との合算▲137億円で登場します。同じ予想で、いちばん大きい減益要因はネットワーク強靭化費用の増(▲459億円)です。副社長自身も値上げ幅について「必ずしもコストをそのまま転嫁しているのではなく、総合的にどのプランをどれだけ上げるかを考えている」と話しています(ITmedia Mobile)。

もうひとつ。今回値上げされるのは、新規受付を終えた旧プランが中心です。日経の記述では、そこに契約者の7割がいます(日本経済新聞)。値引き競争の費用は乗り換えてくる人に向き、値上げは乗り換えなかった人の旧プランに届く。二つを並べると、そういう構図に見えます。

それでも、家計は値下げ前よりずっと軽い

ここまでだと「値上げはけしからん」という話に見えます。でも、家計の数字は別のことを言っています。

2019年=100としたときの3系列。1契約あたり月間通信量は2025年に230、家計の携帯電話通信料は85、CPI通信料(携帯電話)は58。料金表は4割下がり、家計は1.5割、使う量は2.3倍

総務省の家計調査(二人以上の世帯)で、携帯電話の通信料は2019年に月1万611円、2025年に月9,068円です。月に約1,500円、14.5%減りました。同じ期間に、1契約あたりが使うデータ量は月6.6GBから15.3GBへ、2.3倍になっています(総務省 移動通信トラヒック統計)。支払いが1.5割減って、使う量が2.3倍。2019年に1GBあたり100円払っていたとすれば、2025年は37円です。6割以上安くなった計算になります(0.855÷2.30≒0.37。世帯の契約数が変われば、この比率はずれます)。

料金表の値段(物価指数)は4割下がったのに、家計の支払いが1.5割しか減っていないのは、みんなが上のプランに移って、たくさん使うようになったからだと私は読んでいます。値上げが始まった2025年も、物価指数は+8.7%なのに、家計の支払いは−1.2%でした。乗り換えや見直しで下げているのだと、私は読んでいます。

整理すると、こうなります。家計の携帯代を大きく下げたのは、国の号令で始まった5年前の値下げでした。3社が順番に上げ始めてからも、家計は支払いを下げ続けています。平均で見れば、家計の支払いはいまのところ減る方向に動いています。ただしこれは、乗り換えた人と乗り換えない人をならした数字です。疑問3で見た値上げが届くのは、乗り換えない側です。

気になった点

  • この記事は、3社が話し合ったとは書いていません。1社が上げて他社が追随する横並びは、それだけでは独占禁止法の「不当な取引制限」にはあたらないとされています。私が指摘しているのは、示し合わせなくても値段がそろいやすい市場の形です
  • 「人件費という項目が無い」のは、2025年度実績の減益要因の分解の話です。この分解は前年からの増減を並べたもので、人件費が他の項目(たとえばネットワーク強靭化費用)に含まれている可能性はあります。「無い」と「小さい」は別に読んでください
  • ドコモの説明が指す年度と、私が見た内訳の年度は、ずれている可能性があります。値上げは2026年12月からで、「物価や人件費の上昇」は2026年度以降のコストを指しているのかもしれません。2026年度の会社予想では、人件費は他の要因との合算で▲137億円、最大の減益要因はネットワーク強靭化費用の増(▲459億円)です
  • 「9割」の分母は、プラスの項目を差し引いた減益の純額1,665億円です。マイナスの項目だけを足した2,051億円を分母にすると75%になります。また、2024年度の減益(▲1,446億円)の内訳は、この記事では扱っていません
  • 減益内訳の▲537億円と▲206億円の対応は、資料のグラフからの読み取りです。5項目の合計は1,665億円と一致しますが、資料に数表はありません
  • 賃上げ率(6%前後)は報道ベースです。「契約者の7割が対象」は日経の記述で、ドコモの公表数字にはありません
  • 物価指数は2020年基準の系列です。2021年4月の前年同月比は、当時公表の2015年基準では−26.5%(内閣府「今週の指標」)、2020年基準では−37.9%と、基準改定で差があります
  • 家計調査は二人以上の世帯です。単身世帯の携帯通信料は品目別の公表表がありません

まとめ:それは自由競争なのか

3つの疑問に戻ります。

  1. 5年前、誰が下げさせたのか。国です。3社は同じ月に、同じような値段で応えました
  2. 今回、誰が上げると決めたのか。1社が上げ、国が「あとは競争で」と言い、残る2社が1年余りで並びました
  3. 値上げの理由は決算のどこにあるのか。減益は本当です。ただし2025年度の内訳に人件費の項目は無く、9割にあたる1,546億円は端末の値引き競争の費用でした

ここから私が受け取る事実は、ひとつです。携帯料金は、国の号令と3社の横並びで動いてきた。下げたときのきっかけは国の号令で、3社は数週間で並びました。上げたときに国の号令はなく、1社が先に動き、並ぶまでに1年余りかかりました。時間はかかっても、最後は3社がそろった。そこが、この市場の形です。独占禁止法の議論では、この追随を「意識的並行行為」と呼びます。話し合いや情報交換が無ければ、それだけでは違法とはされていません。法律上は、各社が自分で値段を決めている範囲に収まります。ただ、たくさんの売り手が値段を競う市場の姿とは違います。値段はそろい、競争は端末の値引きで起きている。この二つは同時に成り立ちます。4社目の楽天モバイル(シェア3.6%)は2023年6月からの料金を据え置いたままで(楽天モバイル 料金ページ)、格安SIM(MVNO)も、通信モジュールを含めると契約数の2割弱(スマホ向けのSIMカード型は約1割)を占めます。それでも、3社は並んで上げました。

そろって上がった値段を払うのは、乗り換えない人です。ここから先は、私の読みです。3社は、乗り換えてくる客には端末の値引きで競い、乗り換えない客には並んで上げた値段を届けている。ドコモ1社だけで、乗り換えてくる客に端末を安く売るための費用を1年で1,500億円以上増やしながら、乗り換えない人の旧プランを上げる。競争のかかり方が偏っている、というのが私の読み取りです。

それを良しとするか、悪しとするかは、別の話です。国が号令をかけて下げさせた5年前の値下げで、料金表は4割下がりました。3社で8割弱を持つ市場だからこそ、国が言えば一斉に下がる、という面があります。一方で、同じ市場で、1社が上げたときには、時間をかけて残りも続きました。電波という限られた資源を使い、8割弱を持つ3社の値段を、どこまで市場に任せ、どこから国が口を出すか。これは経済学と政治学のあいだにある、古くて答えの出ていない話題です。この記事は、そこには踏み込みません。

ただ、「値上げの理由は物価や人件費です」という説明を読んだら、その会社の決算の内訳を見に行く。それだけは、続けようと思っています。

みなさんはどうですか

あなたの携帯プランは、5年前に乗り換えたままですか。それとも今回の値上げの対象ですか。「3社が順番に上げる」のを見て、乗り換える気になりましたか。それとも、どこに行っても同じだと思いましたか。楽天モバイルに移った方は、その後どうですか。

通信業界の方にも聞いてみたいです。社内では、値上げの理由を「物価や人件費」と説明することに、違和感はありませんでしたか。他社が先に上げたことは、どのくらい後押しになりましたか。